「叱らない子育てがいいって聞くけれど、
じゃあ、困った行動にはどう対応すればいいの?」
そんな問いを、私自身、何度も抱えてきました。
アドラー心理学では、「勇気づけ」の反対は“勇気くじき”だと考えます。
そして、よかれと思った言葉や態度が、
知らないうちに子どもの勇気をくじいてしまうこともあるのです。
勇気くじきとは?
勇気くじきとは、
子どもが「どうせ自分はダメなんだ」「やってもムダ」と感じてしまうような関わり方のこと。
たとえば──
- 「なんでそんなこともできないの?」
- 「だから言ったでしょ!」
- 「また失敗してるじゃない!」
一見、ただの注意に聞こえるかもしれません。
けれど、こうした言葉が重なると、子どもの心の中に
「どうせ自分なんて」「やっても認めてもらえない」
という思い込みが生まれてしまいます。
これは、叱ること自体が“悪い”という意味ではありません。
大切なのは、「行動をどうとらえるか」「どう伝えるか」の視点です。
「叱る」の代わりに必要なのは、“境界”と“信頼”
アドラー心理学では、
「その行動はNG。でも、あなたは愛されている存在だよ」
という伝え方を大切にします。
たとえば──
×「そんなことするなんて、最低だよ」
◎「叩くことはダメ。でも、何かつらい気持ちがあったのかな?」
子どもはまだ、感情のコントロールや表現が未熟です。
叱られたくて困った行動をしているわけではありません。
その奥にある「助けて」のサインに気づくことができたら、
関係は少しずつ変わっていきます。
声かけのヒント:「事実」+「期待」+「信頼」
困った行動への声かけは、
次の3つを意識すると、勇気づけの言葉になります。
✔︎ 1. 事実に目を向ける(感情をぶつけない)
×「またグズグズしてる!」
◎「出発の時間まであと5分だよ」
✔︎ 2. 期待を伝える(命令ではなく願い)
×「早くしなさい!」
◎「間に合うように、一緒に準備できるとうれしいな」
✔︎ 3. 信頼する(結果より“気持ち”に目を向ける)
×「どうせ無理だよね」
◎「失敗しても、やってみようとした気持ちがうれしいよ」
「今の行動はOKじゃなかった。でも、あなたの存在はOK」
──このメッセージを丁寧に届けることで、
子どもは自分を否定せずに、前を向いていく力を取り戻します。
大人も「勇気づけられる経験」を
私たち大人もまた、
「怒られたくないから黙っていよう」
「がっかりされたくないから無理しちゃう」
そんな経験が、心に積み重なっていることがあります。
だからこそ、子どもへの関わりに悩んだときは、
まずは自分自身にもこう声をかけてみてください。
「今はうまくいかなかったけど、大丈夫」
「子どもを大切にしたいって思えているだけで、すごいよ」
完璧じゃなくてもいいんですよね。
勇気をくじかない関わり方は、まず自分を責めないところから始まります。
おわりに:
「叱らない」は目的ではなく、“伝え方の工夫”
叱らない=甘やかす、でも
叱る=厳しく育てる、でもない。
アドラー心理学の「勇気づけ」は、
子どもの行動にしっかり向き合いながらも、
子ども自身の“存在”を大切にする、やさしいまなざしです。
「行動をただす」のではなく、「心に寄り添う」言葉を選んでいきたいですね。
✅次回予告(第3回)
「子どもの“困った行動”はなぜ起きる? ──目的行動論から考える、心のサイン」